みつめる

観たもの、考えたこと、あれこれ

2020年好きだったもの

今年は初めてのぼっち年越しなのでこんな記事を書いてみる。今年好きだった本と音楽と映像作品。

 

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チョン・セラン 『アンダー、サンダー、テンダー』

平凡な毎日の中に溶け込んだ絶望や狂気が淡々と描かれていて、読んでいるうちにゆっくりと具合が悪くなっていく感じがすごく好きだった。すっかり日常生活に馴染んでしまっている性差別が顔のないモブキャラくらいの立ち位置で、だけどそれがありありと分かるようにきっちりと描きこまれていて舌を巻く。今年読んだのじゃないけど『フィフティ・ピープル』も好き。

 

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荻野美穂 『ジェンダー化される身体』

気合入れなきゃ読了できなさそうと思ってしばらくほったらかしにしてしまっていたものの、読み始めたら想像以上におもしろくてのめりこむみたいにして読んだ。産めるからだを持つことそれ自体を知る必要があるし、そのことについて考える必要もあるけれど、だからといって「女」のからだであることが何か特別な不思議な力と結びつくわけではない、というようなこと。Bodies, that matterじゃないけど、フェミニズムを考えるうえでも日常生活を過ごすうえでも、「からだ」の重要さを感じ入った2020年だったのもあってとりわけ印象的だった1冊。

 

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HYUKOH 『Through Love』

まだパンデミックの気配がほとんどなかった頃に出たヒョゴのアルバム。ボサノヴァっぽいイントロで始まる1曲目のhelpが特に好き。今年はワールドツアーの予定もあったのに新型コロナの影響で台湾以降はキャンセルになってしまったのが残念。東京は2月後半、なんとか滑り込めてよかった。ヒョゴのライブはこれまでにも何回か行ってきたけど、なぜか人類愛みたいなのを感じて「かれらの音楽を直接聴くことができる時代に生まれて良かった」という気持ちになって泣きそうになってしまう。演出の効果かしら。またライブ行きたい。

 

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Alfie Templeman 『Happiness In Liquid Form』

Spotifyでいろいろ漁ってるときにたまたま見つけて衝撃を受けた天才。寝る前の電気を暗くした部屋でパジャマ着たまま好きに踊りたい感じ。ちょうど良い具合にドリーミーでメロウでディスコ。誇張なしに全曲好き。これでまだ17才というから末恐ろしい。日本に来たら絶対ライブに行きたい。

 

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TOMORROW X TOGETHER 『minisode1:Blue Hour』

1曲目のGhostingがいちばん好き。今どきのK-POPっぽくないというかいい感じにシューゲイザーバンドっぽくて、それがとても新鮮で心地良い。一時期スーパーカーにドはまりしていたのもあってかドンピシャ。2曲目のBlue Hourも好き。きらきらディスコポップ。

 

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Alice Wu 「the half of it」 (ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから)

同じ映画何回も観るほうじゃないけどこれは好きすぎて3回観た。たいていの作品では異性愛が自明とされていて男女ってだけで意味もなく恋愛に収束しがちだけど、この映画はそれに対してNOを表明しているのが好きだった。そんな行動は馬鹿げていると思っていても、現実にそれが起きたときには深く心に刺さることもあるのだということも描いてるシーンがあって、それもすごくすごく好きだった。あとキリスト教の存在感が印象的。それにしても今年は郊外で高校生活を送るアメリカのティーンの映画ばっかり見てたな。

 

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今泉力哉 「his」 

ところどころ棒読みの人出て来てびっくりするけど、なんというかムカつくところがない同性愛の映画だなと思った(マイノリティに位置づけられている人々を「主題」として取り上げる作品を観るときはどうしてもムカつく/ムカつかないで判断してしまう)。離婚裁判のパートの描き方は「マリッジストーリー」を髣髴とさせる。裁判をより有利に進めるために本来言いたいわけでもない言葉をぶつけあう苦しさ。ひとりの人物を全面的に悪人にするわけでもなく善人にするわけでもなく、リアルに緻密に描くこと。某BL原作映画が個人的に最低だったので(ミソジニーが煮詰まってた)この映画の存在自体が救いでもあった。

 

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椿の花咲く頃

日本では「愛の不時着」や「梨泰院クラス*1」が話題になってたけど、今年イチの韓国ドラマはダントツでこれ。自己卑下ばかりでうじうじしてる主人公のトンベクが、ヒョンシクと関わる中でだんだんと胸を張って好き勝手やるようになっていく、その一筋縄ではいかないプロセスが丁寧に描かれているのがとても素敵だった。女たちの対立と連帯を時系列に沿って丁寧に描いているのも好き。ラブコメでもあり、スリラーでもあり、というのも新鮮だったかも。(怖い演出が苦手なのでスリラー展開のときはドキドキしながら見てた)

 

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MIU404

ハマりすぎて毎週金曜日はうどん食べてた。プロデューサー新井順子、脚本野木亜紀子、監督塚原あゆ子のタッグが最高だったドラマ。シンプルにおもしろいし、なにより「今」なトピックがこれでもかと詰め込まれている。映像の暗喩も楽しい。日本語学校/実習生の回はカタコト日本語*2と「かわいそうな他者」としての外国人の描き方に拒否反応示しちゃったけど、いろんなことを考える出発点にもなりうるドラマだったなと。

 

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POSE

「ミッドナイトスワン」におけるトランスジェンダーの表象のされ方と役者のキャスティングに批判の声があがったときに「disclosure(トランスジェンダーとハリウッド:過去、現在、そして)」と一緒に名前が出ていたドラマ。このドラマを見るまではボール・カルチャーを知らなかったし、マドンナの「Vogue」との順番もよく分かってなかった。ボールはごきげんでカッコよくて見てるだけでめちゃめちゃアガるけど「最下層」の現実もちゃんとつきつけられる。ヴォーグカッコいいし音楽もずっと最高。あと身長高くてごつい女が堂々としてるのがラブ。

 

紅白見ながら書いてたら23時過ぎてしまった。ギリギリ。希望はあんまりなさそうな気もするけど、来年はイベントとかもぼちぼち行けるようになるといいな。

おわり

*1:関係ないけど父親探しに韓国に来た人(セロイたちから「外国人」と位置づけられる)がずっと「自分は韓国人だ」って言ってるのに、それが何も解決されないままなぜか最終的に英語で接客するようになってハッピーエンドみたいになってるのずっと納得いってない。

*2:実際にベトナムにルーツがある方を起用していたのはすごく今だなと思ったけど、一般的な日本語の教科書使ってたらそんな発話の仕方にはならないんじゃない?という喋り方、想像上の「外国人」っぽい喋り方をしていてちょっとげんなりしてしまった。