みつめる

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ハラスメントで笑いを取ろうとする「偉い人」っていつになったらいなくなるかな

会社の管理職と若手数人とで、話しながら互いの考えを知り、若手は自分の今後を考える機会とする、というような趣旨のもとに開かれた食事会に参加したときの話。会社のコンプライアンスの窓口に連絡したほうがいいのか今も迷っているけど、それほど「重大な」問題なのかと自分に問いかけている部分もある。たぶん大半の人はこの先に書いてあることを読んでも「大したことじゃない」と言うと思うし、わたしもこういうのを目にしたのは別に今日が初めてじゃない。でも、やっぱり変だと思ったし、気持ち悪いと思った。何より、これは将来的に会社にとって不利益になり得ることだと思った。たまたま顕在化していないだけで、ある意味でこれは会社のリスクなんじゃないかと思った。

ざっくりまとめると、管理職のおじさん(別におばさんでもどっちでもないひとでも同じことが起きてたかもしれないけど、今回はたまたまおじさんだった)が、かつて「それはハラスメントになり得ると思います」と指摘された行動について、「こんなことまでハラスメントだって言われたらどうしようもないよね」と、若手であるわたしたちに同意を求める、ということがあった。同調してもらって安心したのか、そのあと、わたしたちとのやりとりの中に何度か「あ、いまのパワハラじゃないからね」という余計なひとことを挟んで「笑いを取ろう」としていた。

楽しそうに「これはパワハラじゃない」と「冗談」を言って笑うおじさんと、ははは、と同調する他の若手をわたしは終始仏頂面で見守っていた。ほんとはその場で「いや、」と言ってケンカをふっかけるべきだったのかもしれないけど、そんな勇気も気力もなかった。わたしにできる最大の抵抗が仏頂面だった。

気になってあとで調べてみると、おじさんが指摘されたと言っていた言動は、たしかに「セクシャルハラスメント」(性別を理由に差をつける発言)に分類されることがわかった(わたしの会社において)。窓口に通報したらアウトになってしまうような言動を通報せずに、その場で指摘するに留めてくれた相手におじさんはまず感謝するべきだったんじゃないだろうか。そのうえで、おじさんが本当に伝えたかったことを失礼の内容に相手に伝えるためにはどうするべきかと聞くなりするべきだったんじゃないだろうか。その場での詳しいやり取りは聞かなかったのでなんとも言えないが、わざわざ若手のわたしたちに同意を求めてきた意味は全然わからなかった。なによりそのあとの「ハラスメントじゃないからね」という茶化しに気持ちが無になってしまった。

その「冗談」ほんとうにおもしろいと思って言ってる?

これまで世間一般的に許されていて、何の問題もないと思っていた出来事や考えが「ハラスメント」だと規定されてしまったことに面食らったとか、自分としては気を遣っただけなのに「ハラスメントになり得る」と指摘されてショックだったとか、そういう理由で愚痴もこぼしたくなってしまったのかもしれない。だけど、そういうことを思ったとしても、少なくともそれはこういう場面で若手に言うべきことではないと思った。役職に関係なく対等な人間として付き合うことができる環境があらかじめ構築されているとか、そもそもおじさんがその場の若手の今後に関係が薄い人間であるとか、そういった前提条件があるのであればまだ良かったのかもしれない。だけど今回の食事会にはどこか「偉い人のありがたいお話を聞かせていただく」というような空気が漂っていたし、そのおじさんはその場にいた若手の将来に関わってくる可能性が十分にある人物でもあり、よっぽどの勇気がなければ、若手がおじさんの意見に異を表することはできない雰囲気になっていた。

こんな「ちっぽけな出来事」にいちいち仏頂面を浮かべてしまうわたしは社会人失格とか言われちゃうんだろうか。仏頂面を浮かべると同時に、本当はすごく興味を持っていたおじさんだったのに、いっしょに仕事をしてみたいとあんまり思えなくなってしまったのが悲しかった。今回の出来事だけで人を判断するのはあまりにも短絡的だし、結果的にわたし自身の可能性を狭めることになるのかもしれないけれど、個人的に抱いていた尊敬みたいなものがそのやり取りだけでガーンと下がってしまったのは否めない。

余計なことを考えがちな性格をしているので、もしわたしがお客さんだったらどうするんだろうとかいうことも考えてしまった。お客さん側にわたしと同じようなことを感じる人がいないとは限らないじゃないか。 いやでもさすがにお客さんの前ではそんなこと冗談でも言わないか。とかうんうん考えていたらちょっと悲しい推論にたどり着いた。お客さん側で意思決定を行う人たちもそういう「冗談」を面白がれる人たちなのではないか。社内全体あるいは意思決定層において共有されている価値観や倫理観、ふだん問い直されることがないそれらが「商品」というようなかたちで具現化された場合にだけ(さらに言えば顧客からの指摘で「炎上」したようなときだけ)、それまで当たり前だった観念を批判的に見つめなおすというような動きがわずかに起きる、という仕組みになっているのかもしれない。とすれば、「商品」というかたちで具現化されない場合、そういった思想や観念はコミュニティの中では維持され続けていく。少なくとも日本では大いにあり得るだろうなと思ってしまった。ハラスメントについてちょっと知っているつもりになっている自分をアピールするために「ハラスメント」で笑いを取ろうとするやっかいな人たち。

会社の集まりだったこともあったせいか、ひとりの人間として、というよりはビジネスの最前線で創造だ最先端だと言ってる人がこれなの?とすこしばかりショックを受けてしまった(こじつけかな?)。今後も日本だけで閉じたビジネスをするのであれば、別にその考えや態度を変える必要はないのかもしれない。そうやって若手に愚痴って笑い話にしてればいいのかもしれない。だけどわたしの会社が見ている方向は日本国内じゃないはずで、なのに、こんなことを考えたりしないといけない状況に出くわしたことがただただ残念だった。

ごはんはすごくおいしかったんだけど。

おわり