みつめる

観たもの、考えたこと、あれこれ

190427 瀬戸内海のカロカロ貝@北沢タウンホール

恒例のハッピーガールっぷりを発揮した。何度トライしても取れなかったチケットを直前に譲っていただいて、かが屋の第2回単独公演を見てきた。めちゃくちゃ良かった。あまりにも良すぎて、なのにどこか胸が苦しくて、笑いながら泣いてた。

北沢タウンホールは、下北沢駅から歩いて5分くらいのところ、ふだんは近隣住民が公的な手続きなどをするような建物の中にあった。あまりふかふかとは言えない椅子が並ぶミニシアターみたいな、今まで行ったなかでいちばん近いのだと塚口サンサン劇場かな、そんな感じの、300人くらいが入るこぢんまりしたホール。

ホールの入口につながる階段のそばで整列して階段を上がり、チケットをもぎってもらう。ファンの方から贈られたらしいお花を横目に劇場の扉をくぐると耳馴染みのある音楽が聴こえてきて、かが屋のふたりや、公演の手伝いをしたであろうかれらの仲間たちが、自分と同じ世代だということに思い当たる。そして、なんとなくくすぐったい気持ちになる。

舞台が見やすそうな座席に腰を下ろして、チラシをぱらぱらとめくる。グッズでも買いに行こうかなと思っていると、不意に、聞き覚えのあるベースと、それに続く軽やかなギターのストロークが場内に流れた。そして、伸びやかなトランペット。

5限が終わるのを待ってた わけもわからないまま

椅子取りゲームへの手続きはまるで永遠のようなんだ

とりわけ思い入れがある曲でもなかったはずなのに、太陽のひかりでなまぬるくなった各停電車に乗って、うとうとしながらこの曲を聴いていた頃のことが急にフラッシュバックした。自分でもびっくりしたけど、ちょっとだけ目の前がにじんだりなんかした。大学への入学が決まったとき、第一志望に入れなかったことへの劣等感で頭がいっぱいだった。これから通う大学に期待も希望もなく、傲慢でありながら卑屈だった。大学1年生の4月、大学に向かう電車のなかで窓の外を流れていく景色を見ながら「いつかこの風景が懐かしくなる日が来るのかな」とぼんやり考えていた。1年くらい経って、いろんな本や人と出会ってだんだん大学生活が楽しくなってきた頃。その頃によく聴いていた曲だった。いつか懐かしくなるんだろうなと思ったあの頃が懐かしくなって、開演前にちょっとだけ泣いた。(andymoriで胸がキュウとなりすぎてポエムのようなプロローグ)

単独公演で見たコントは全部で7本。

オープニング(タイトル不明)/リズム/ランチ/親友/市役所/電話/始発

ぜんぶ好きだったけど、特にグッと来たのはランチと市役所。ひとつひとつのコントに登場するキャラクターがぜんぶちゃんと「人間」で、それぞれに個性があって、クセがあって、ずるい人もいればお茶目な人も天真爛漫な人もいて、かが屋がつくりだすこの世界観がほんとうに好きだなって思った。

 

めちゃくちゃネタバレしているので、たたんでみた。

 ランチ

どうやらどこかの公園にいる設定らしい。舞台の真ん中にベンチに座った賀屋さん(ロン毛)がおいしそうに、そして大事そうに、スティックパンをほおばっている。1本を食べ終え、袋の中に残っているもう1本を食べようかどうしようかと迷ったすえ、決心したような表情をしてスティックパンが入った袋をリュックの中に仕舞う。ひと息ついていると、舞台袖から飢えに飢えた様子の加賀さん(短髪)が賀屋さんのもとへやって来る。きっとふたりはふだんから極貧の生活を送っているのだろうなと想像させるやり取りがなされる。「なんか食べもの持ってない?」と加賀さんに問いかけられ、考えた末に「持ってない」と言ってしまう賀屋さん。ほんとうはカバンのなかにスティックパンがあるにもかかわらず、そう言ってしまったときの賀屋さんの表情! 

目の前で飢えている友人に対してウソをつくことに良心の呵責を感じながらも、だからといって貴重な食糧をそのまま渡すことにも抵抗がある。公演が終わったいま振り返ってみると、そんなふうに葛藤する様子が客席に伝わるようにコントのなかに細かなきっかけを作る構成力や、その様子を緻密な動きや演技で伝える表現力につくづく感心する。そもそも良心の呵責をコントにしようとするところ、そういうところだよ。ほんとに好き。

その後、紆余曲折あって知り合いからランチパックを手に入れた加賀さんが、「ランチパックがもらえたのも間接的には賀屋のおかげだから」というようなことを言って、何のためらいもなくひと切れを賀屋さんに渡そうとする。良心の呵責がMAXぐらいに達してしまっている賀屋さん、顔を覆いながら「もらえない!」と拒むと、加賀さんは「じゃあ半分こね」とそのひと切れの半分を賀屋さんに渡す。半分を手にした賀屋さんがついと客席を見る。「その手があったか」とでも言っているような表情をした賀屋さん。暗転。

切実だけど笑える、そしてリアルでどこか切ない。Youtubeに上がっているかが屋のコントを見た限りでの感想・印象だけど、かが屋のコントでは、日常と切り離せないなにか、なんとなく触れづらいような雰囲気があるけれども間違いなく存在しているもの(問題、と言ってしまうとニュアンスが変わってしまう)が切り取られていて、それらは身近にあるものだから、毎回見るたびに笑いながらもちょっとだけ泣きそうになってしまう。人間の感情、とくに恥ずかしさとか気まずさとかそういうところを、誰も傷つけることなく笑いとして切り出す、あるいは笑いに昇華させるのがほんとうに上手だなって思う。

 

市役所

ほんとうに大好き。たぶんこれでキングオブコント優勝できる。世界中のひととこの感動を共有したいから1日もはやく映像化されてほしい。(わたしは真面目な話をしています)

場面は市役所。りっぴ(賀屋さん)とけんちゃん(加賀さん)。市役所で働いているりっぴのところに、けんちゃんが仕事を休んでやって来る。前日に飲み会で遅くなるにもかかわらず連絡をしなかったことを反省していることを、りっぴに示そうとするけんちゃん。よくある恋人同士のけんか後に仲直りするシーンなんだけど、ふたりが良い感じに和解したかと思ったところでけんちゃんが唐突に「婚姻届けをください」と言うことで空気ががらりと変わる。

ほんとうはここに至るまでに細かい笑いがもっとたくさんあるんだけど、なにぶん細かすぎてわたしの文章力じゃ全然伝わらない。あのコントってどれくらいの台本を作ってるんだろう、っていまふと思った。

「結婚しよう」というけんちゃんの言葉に静まる会場。ここまでの流れからすればきっと断らないはず、と思っていたのにまさかの「ごめんなさい」。(コントの世界観に完全にどっぷりダイブしていたわたしはここでめちゃくちゃ大きい声で悲しんでしまいそれはもう大変恥ずかしかった。)「結婚の前に同棲してみなきゃわかんないってゼクシィに書いてあった」、「住む場所がふたつあるタイプの同棲じゃん」、「まさかゼクシィに結婚邪魔されるとはな」とか、セリフのディテールがいちいち面白くて、ふたりの掛け合いにひたすら涙流しながら笑ってた。けんかかと思えばのろけじゃんみたいなシーンもあって、幸せだな~~~って思いながらずっと笑ってた。

あんなに面白かったのに全然うまく文章にできない!くやしい!

 

かが屋、ハマってから半年しか経ってないけどわりと本気で今年のキングオブコント優勝するんじゃないかなって思ってる。


かが屋『イヤホン』

 


かが屋『バイトのシフト』

賀屋さんがやる女の子キャラ好き。